大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所下関支部 昭和56年(ワ)134号 判決

主文

一  被告新村和生及び同新村利刀は原告に対し、各自金一六七万八五九三円及びこれに対する昭和五四年四月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告古川公次、同下関市に対する請求及び同新村和生、同新村利刀に対するその余の請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の二〇分の一と被告新村和生、同新村利刀に生じた費用の二〇分の一を同被告らの負担とし、その余の費用は原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自三四八一万四二〇九円及び内金三一五六万四二〇九円に対する昭和五四年四月一日から、内金三二五万円に対する昭和五六年六月一三日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 第一事故の発生

(1) 日時 昭和五一年一一月二四日午前一一時三〇分頃

(2) 場所 下関市関西町一―一吉田板金工作所前

(3) 加害車 普通貨物自動車(以下「第一加害車」という。)

(4) 右運転者 被告古川公次

(5) 右所有者 被告下関市

(6) 被害車 普通貨物自動車(以下「第一被害車」という。)

(7) 態様 第一被害車が停止していたところ、第一加害車が第一被害車の右後部に接触追突した(以下「第一事故」という。)。

(8) 傷害 原告は第一事故により頚部挫傷、症候群の傷害を被つた。

(二) 第二事故の発生

(1) 日時 昭和五二年一二月一五日午前六時五五分頃

(2) 場所 下関市大坪本町一〇番二〇先道路上

(3) 加害車 軽四貨物車(以下「第二加害車」という。)

(4) 右運転者 被告新村和生

(5) 右所有者 被告新村利刀

(6) 被害車 普通乗用車(以下「第二被害車」という。)

(7) 態様 第二被害車が運転進行中第二加害車が追突した(以下「第二事故」という。)。

(8) 傷害 頚部挫傷・症候群

2  被告らの責任

(一) 被告古川公次

同被告は、前方不注視の過失により第一事故を発生させたので、民法七〇九条の責任。

(二) 被告下関市

同被告は、第一加害車の運行供用者として、自賠法三条の責任。

(三) 被告新村和生

同被告は、先を急ぐあまり無謀運転をした過失により第二事故を発生させたので民法七〇九条の責任。

(四) 被告新村利刀

同被告は、第二加害車の運行供用者として、自賠法三条の責任。

3  損害

(一) 治療費 五六万八六九八円

(二) 通院交通費 一七八万二九八〇円

(三) 休業損害 四八一万七〇六一円

昭和五二年三月一日(退職日の翌日)から昭和五四年三月三一日(但し、同月二二日症状固定)まで、平均月収を第一事故前三月分の月収五一万八一四五円の三分の一として、昭和五二年度の夏期賞与分一六万二七一五円、昭和五三年度の賞与二回分三三万〇七一五円を加算して算出。

(四) 後遺症逸失利益 二八九〇万五八九五円

原告は、第一、第二事故による後遺症として、全方向にわたる頚部運動制限、運動痛、四肢及び躯幹部におけるミオフローヌス様或いはジストニア様不随意運動の後遺障害が残存している。右障害等級は自賠法施行令別表の三級三号もしくは五級二号に該当する。

原告は、本件第一、第二事故前の収入が年収二四三万二〇二〇円、症状固定時である昭和五四年三月二二日当時四四歳で六七歳まで就労が可能であるから、新ホフマン方式(係数一五・〇四五)により、労働能力喪失率七九パーセントとして算出すると、二八九〇万五八九五円となる。

(五) 慰謝料 八八四万円

4  損害の填補 一三三五万〇四二五円

5  弁護士費用 三二五万円

二  請求原因に対する認否

1  被告古川公次、同下関市

(一) 請求原因1(一)(1)、(2)の事実は認める。

(二) 同 1(一)(3)、(6)の事実は否認する。第一加害車、第一被害車とも小型貨物自動車である。

(三) 同 1(一)(7)は第一加害車の荷台中央平板部が第一被害車の荷台角に接触したものである。

(四) 同 1(一)(8)の事実は否認する。仮に傷害が生じたとしても、仕事に支障を生ずるようなものではない。

(五) 請求原因2(一)(古川公次の責任)は認め、2(二)(下関市の責任)は争う。

(六) 請求原因3項は争う。原告の損害は第一事故と因果関係のないものである。

2  被告新村和生、同新村利刀

(一) 請求原因1(一)の事実は不知。

(二) 同 1(二)(1)ないし(7)の事実は認める。

(三) 同 1(二)(8)は争う。

(四) 同 2(三)、(四)は争う。

(五) 同 3項は争う。

三  抗弁

1  被告古川公次、同下関市は次のとおり弁済した。

(一) 治療費分として 一一万四六一七円

(二) 通院交通費分として 五万一九四〇円

(三) 休業補償金分として 二〇〇万一九八五円

(四) 後遺症分として 三九二万円

(五) 被告古川支払 一一万〇五〇〇円

2  被告新村和生、同新村利刀の弁済

(一) 治療費分として 一七四万六四六五円

(二) 休業損害、入院雑費、交通費、慰藉料として 三四九万円

(三) 後遺症分として 三九二万円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は不知。

2  抗弁2項のうち、自賠責分三九二万円、通院交通費分二七万九六八〇円、休業損分二七〇万五七九〇円と四七万一〇三〇円については認め、その余は不知。

第三  証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1(一)のうち、(1)、(2)の事実は原告と被告古川、同下関市間に争いがなく、証拠(甲六、八、の二、九、二〇)によれば、被告古川は、被告下関市所有の第一加害車を運転し、同被告の公務に従事中、自車前方で左折すべく、車両の前部を左折し、後部を自車の進路上に残して停止中の第一被害車の右側方を、約三〇キロメートル毎時の速度で通過しようとしていたところ、対向車との衝突の危険を感じて左に急転把した際、第一被害車の右後方角に第一加害車の左側部を接触、衝突させて第一事故を惹起したことが認められる。

二  請求原因1(二)(1)ないし(7)の事実は原告と被告新村和生、同新村利刀間に争いがなく、証拠(甲二六、三〇、三一、三六)によれば、被告新村和生は、第二加害車を運転し第二被害車に時速約三〇キロメートルで追従進行中、減速した同車の動静に注視せず、脇見運転をした過失により同車に追突し第二事故が発生したことが認められる。

三  原告の第一事故、第二事故に基づく傷害につき検討する。

1  証拠(甲一三、一四、一六の二、一七の二)によれば、原告は第一事故により、頚部損傷、頚肩腕症候群の傷害を受けたことが認められる。

2  証拠(甲二九、六八、六九、証人大宮、同大屋)によれば、原告は第二事故により、頚部挫傷、外傷性頚部症候群の傷害を受けたことが認められる。

四  被告らの責任

1  請求原因2(一)(被告古川の責任)は当事者間に争いがなく、前記認定の事実によれば、被告下関市は第二加害車の運行供用者として、自賠法三条の責任があると認められる。

2  前記認定の事実によれば、被告新村和生は第二事故につき民法七〇九条の責任があるというべく、弁論の全趣旨によれば、被告新村利刀は第二加害車の運行供用者として、自賠法三条の責任があると認められる。

五  請求原因3項(損害)につき判断する。

1  治療費(但し、原告の自己負担分)

後述のとおり、原告の第一事故による傷害は、遅くとも第二事故(昭和五二年一二月一五日)の前に症状が固定していたと認められる。証拠(甲一九七の一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、原告は第二事故による傷害治療のため、同傷害が症状固定(昭和五四年三月二二日)するまでの間、自己負担分として、治療費六〇〇〇円を支出したことが認められる。

2  通院交通費

証拠(甲一三、一六・一七の各二、五六の一ないし五、五七の一ないし四・六、六八、六九、七五の一ないし三、七七の一ないし五、八〇の一ないし四、一〇一、一〇二の一・二、一〇三、一〇四、一〇六の一・二、一四九、一七七、乙一の二)及び弁論の全趣旨によれば、原告は第一、第二事故による傷害治療のため、次のとおり通院したことが認められる。

(一)  厚生病院(下関市)昭和五一年一一月二六日から同年一二月二五日(二日)、昭和五二年一月一四日から同月二四日(二日)、同年六月一三日から同年七月三一日(四二日)、同年一二月一六日から昭和五三年一月五日(五日)

(二)  早田整形外科(下関市)昭和五二年一月二四日から同年六月一〇日(七六日)

(三)  下関市立中央病院(下関市)昭和五二年五月二〇日から同月三〇日(二日)

(四)  国立下関病院(下関市)昭和五二年六月八日(一日)

(五)  南小倉病院(北九州市)昭和五二年七月四日から同年一一月二八日(二二日)

(六)  山口労災病院(小野田労災病院と同じと認める。小野田市)昭和五二年一二月二六日から昭和五四年三月二二日(一四二日)

(七)  九大病院(福岡市)昭和五二年一二月一五日(一日)

証拠(乙一の一、三)によれば、被告古川、同下関市は原告に対し、通院交通費として五万一九四〇円を支払つていることが認められることからすると、原告は第一事故に基づく右通院の費用として、同額の損害を被つたことが認められる。

また、原告は、第一事故の症状固定後第二事故の症状固定日までの間認定のとおり通院したことが認められ、右通院回数、病院までの距離等を勘案すると、原告は、第一事故分の五倍(二五万九七〇〇円)を下らない通院費用相当の損害を被つたと推認することができる。

なお、前掲の証拠によれば、原告は通院方法としてタクシーを利用したことが窺われるが、タクシーの利用が相当であつたとの証拠はない。

3  休業損害

証拠(甲一三、一六・一七の各二、五六の一ないし五、五七の一ないし四・六、六九、七五の三、一〇一、一〇二の一・二、一〇三、一〇四、一〇六の一・二及び原告本人)によれば、原告は、八起土木を退職した日の翌日であり、休業損害の始期となる昭和五二年三月一日から後記第一事故による後遺障害固定日である同年一二月一四日までの間の実通院日数一四七日及び第二事故の日である同月一五日から同事故による後遺障害の固定日である昭和五四年三月二二日までの間の実通院日数一四八日並びに昭和五三年一月一一日から同年三月一八日までの入院期間六七日は、休業せざるを得なかつたと認められる。

証拠(甲一三八、一三九の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、第一事故前である昭和五一年八月ないし一〇月の三月分の給与(本給及び付加給)五一万八一四五円の四倍に同年の賞与二回分三三万六〇〇〇円を加えた二四〇万八五八〇円(年収)から日収を算出すると六五九九円となる。

よつて、第一事故による休業損害は九七万〇〇五三円となり、第二事故による休業損害は一四一万八七八五円となる。

4  後遺症逸失利益

(一)  証拠(甲二九、四四、四五、乙九の二、証人早田、同井上)によれば、原告の第一事故による傷害は、第二事故の直前には頚部硬直感、頚部の運動障害、頚部から後頭部痛、頚部から項部の痺れ感、両上肢の異常知覚(疼痛性)、知覚障害右側の後遺障害を残して症状が固定していたと認められ、右の程度は自賠法施行令二条の障害等級の一四級ないし一二級と認められ、原告は右後遺症により、右症状固定時から一五年間、年一四パーセントの割合による労働能力の喪失があると推認される。

(二)  証拠(甲三九、四一、四二、四七、五〇、五九、一五六、一五七、証人大津、同柏村、同中邑)によれば、原告の第二事故による傷害は、全方向にわたる頚部運動制限(左右側屈中等度制限、後屈中等~強度制限、前屈軽度制限)、後屈、左側屈にてスパーリング徴候陽性、時に項部筋肉のスパズム、両肩甲帯に軽度の筋萎縮等の後遺障害を残して昭和五四年三月二二日に症状が固定したと認められ、原告は、右後遺症による頚部運動痛、後屈時の失神様症状、両側の上下肢、項部、肩甲帯に発作性或いは頚部運動時に生ずる異常知覚のため、服することができる労務が相当な程度制限されること及び右症状固定後である昭和五四年六月二〇日頃からは心因性と思われる(自動車の運転は可能であるが、人前では著しく増悪する)四肢のミオクローヌス様、ジストニア様、チック様の不随意の症状が発現していることが認められる。

右後遺症の程度は前記障害等級の九級に相当すると認められ、原告は右後遺障害により、第二事故の症状固定時から一五年間労働能力を三五パーセント喪失したものと推認される。

(三)  そこで、前記収入を基礎として、新ホフマン方式により中間利息を控除して、後遺症逸失利益の現価を算出すると次のとおりとなる。

第一事故分 三七〇万二七三九円

算式 (240万8580×0.14×10.9808=370万2739)

第二事故分 五五五万四一〇八円

算式(240万8580×0.35×10.9808=925万6847

925万6847-370万2739=555万4108

但し、第二事故後の後遺症分から第一事故分の後遺症分を差引いたもの)

5  後遺症慰藉料

原告の前記後遺症に対する慰藉料は、被告古川、同下関市において一三〇万円、被告新村和生、同新村利刀において一七〇万円と認めるのが相当である。

六  損害の填補

(一)  抗弁1(一)は原告の請求分以外の治療費に充当されたものと考えられ、採用できない。

抗弁1(二)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

証拠(証人中井、原告本人)によれば、被告古川は原告に対し、第一事故に対する見舞金として一一万円(1(五))を支払つたことが認められる。

(二)  抗弁2(一)の原告の請求分以外の治療費に充当されたものと考えられ採用できない。

抗弁2(三)の事実は当事者間に争いがない。

証拠(丙三)、弁論の全趣旨によれば、第二事故による給付金として、共栄火災海上保険から原告宛に四二三万六一一五円が振込まれ、内金三四九万円が抗弁2(二)の休業損害等に充当されたことが認められる(なお、内金三四五万六五〇〇円については当事者間に争いがない)。

したがつて、原告の第一事故に基づく損害は全額填補されており、第二事故に基づく損害額八九三万八五九三円から填補額七四一万円を控除すると一五二万八五九三円となる。

七  弁護士費用

本件請求の認容額、事案の難易、その他本件に現れた諸般の事情を勘案すると、弁護士費用相当損害金として、被告新村和生、同新村利刀に対し一五万円を認めるのが相当である。

八  よつて、原告の本訴請求のうち、被告古川、同下関市に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、被告新村和生、同新村利刀に対する請求は一六七万八五九三円及びこれに対する第二事故の症状固定日の翌日以後である昭和五四年四月一日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 児嶋雅昭 加賀山美都子 松尾嘉倫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例